トランジスタの働き
GPIOの小さい電流で、大きい電流をON/OFFする — BC337-40BUのしくみ
1. なぜGPIOで直接IR LEDを駆動しないのか
GPIOが安全に流せる電流には上限がある。一方、IR LEDを十分な明るさで光らせるには、GPIOの上限に近い、あるいは超える電流が必要になる場合がある。GPIOに過大な電流を流すと、マイコン側の破損につながる。
そこで、GPIOには「小さい電流でON/OFFを操作するだけ」の役割を持たせ、IR LEDへ流れる大きい電流は別の電源(VBUS)から別の経路で流す。この「小さい電流で大きい電流を制御する」という切り替え役を担うのがトランジスタである。以下、その中身を順に見ていく。
2. 電流とは何が動いている現象か
金属の中には、原子核に強く束縛されず結晶全体を自由に動き回れる電子(自由電子)がたくさんある。電圧をかける、つまり両端に電位差をつくると、その間に電界が生じ、自由電子はその力を受けて一斉に移動を始める。この電子の移動が電流の正体である。
電流は「+から−へ流れる」と定義されるが、実際に動いているのは負の電荷を持つ電子であり、電子自身は−から+(電位の低い方から高い方)へ移動する。電流の向きは、電子の存在が分かる前に決められた歴史的な定義のため、電子の移動方向と逆になっている。
ゴムやガラスのような絶縁体では、電子が原子にしっかり束縛されていて自由に動ける電子がほとんどない。だから電圧をかけても電流はほぼ流れない。導体と絶縁体の違いは、結局のところ「自由に動ける電子がどれだけあるか」の違いに帰着する。
この「自由に動ける電子の量」を、材料を作る段階で人為的に、しかも精密にコントロールできるようにしたものが半導体である。トランジスタはこの半導体でできている。
3. 半導体 — 電子の量を人工的に調整する
トランジスタの材料であるシリコン(Si)は、1つの原子が周囲4つの原子と結合(共有結合)して結晶を作る。すべての結合手が使い切られているため、純粋なシリコンには自由電子がほとんどなく、電流はごくわずかしか流れない。
ここに、ごく微量の別の元素を意図的に混ぜる(ドーピングする)と、電気的な性質が大きく変わる。
| 種類 | 混ぜる元素の例 | 結合の様子 | 結果 |
|---|---|---|---|
| N型半導体 | リン(P)など、シリコンより結合手が1本多い元素 | 結合に使われない電子が1個余る | 余った電子が自由電子として動ける。負(Negative)の電荷を運ぶキャリアが多い |
| P型半導体 | ホウ素(B)など、シリコンより結合手が1本少ない元素 | 結合手が1本足りず、電子の抜けた穴ができる | その穴(正孔)が電子の代わりに動き回れる。正(Positive)の電荷を運ぶキャリアが多い |
電子が1個抜けた「空席」のこと。隣の電子がその空席に移動すると、空席自体は逆方向に移動したように見える。この見かけ上の動きを、あたかも正の電荷を持った粒子が移動しているかのように扱い、正孔と呼ぶ。
N型は電子が多く、P型は正孔(電子の不足分)が多い。トランジスタは、このN型とP型を組み合わせてつくる。
4. PN接合 — 電流を一方向にしか通さない境界
N型半導体とP型半導体を接合すると、接合面の近くで電子と正孔が互いに引き寄せられて結合し、消えてしまう(再結合)。その結果、接合面のごく近くには自由に動けるキャリア(電子・正孔)がほとんど存在しない薄い層ができる。これを空乏層と呼ぶ。
この空乏層の厚さは、外からかける電圧の向きによって変化する。
| 電圧のかけ方 | 空乏層への影響 | 結果 |
|---|---|---|
| 順方向(P側に+、N側に−) | 電子・正孔が接合面へ押し寄せ、空乏層が薄くなる | ある電圧(シリコンで約0.6〜0.7V)を超えると空乏層がほぼなくなり、電流が流れ始める |
| 逆方向(P側に−、N側に+) | 電子・正孔が接合面から引き離され、空乏層が厚くなる | キャリアが接合面を通れず、電流はほとんど流れない |
この「順方向にかけると空乏層が消えて電流が流れ始める電圧」が、LEDやダイオードの順電圧、そしてトランジスタのBase-Emitter間の電圧としてたびたび登場する約0.6〜0.7Vの正体である。すべて同じPN接合の性質に由来する。
5. NPN型トランジスタ — PN接合を2つ組み合わせる
BC337のようなNPN型トランジスタは、N型・P型・N型という3層構造をしている。それぞれがCollector(N型)・Base(P型・非常に薄い)・Emitter(N型)に対応する。
Base-Emitter間に順方向の電圧(約0.6〜0.7V)をかけると、この接合の空乏層が薄くなり、Emitter側のN型からBase側のP型へ、大量の電子が流れ込もうとする。
ここでBaseの層が非常に薄いことが効いてくる。本来ならBase側で正孔と再結合して消えるはずの電子の大部分は、Base層が薄すぎるために再結合する前に突き抜けてしまい、隣接するCollector側のN型へなだれ込む。Collector-Base間には逆方向の電圧がかかっており、通常なら電流をほとんど通さないはずのその接合を、Emitterから流れ込んできた大量の電子が突破していく。
Base-Emitter間の空乏層をどれだけ薄くできるか(=Emitterからどれだけの電子を送り込めるか)を決めているのはBase電流の大きさである。Base電流をわずかに変化させるだけで、Emitterから供給される電子の量が大きく変わり、結果としてCollector側へ突き抜ける電子の量、すなわちCollector電流が大きく変化する。この「小さな入力で大きな出力を左右する」比率が、トランジスタの電流増幅率(BC337ではおおむね数十〜数百倍)にあたる。
6. 2つの電流経路 — Base側とCollector-Emitter側
ここまでの構造を踏まえて、実際の回路を見る。BC337を使った回路には、独立した2つの電流経路がある。
| 経路 | 電流の大きさ | 流れる区間 | 役割 |
|---|---|---|---|
| Base電流 | 小さい(約1mA程度) | GPIO → 2kΩ → Base → Emitter → GND | Base-Emitter間の空乏層を薄くする「操作用」の電流 |
| Collector-Emitter電流 | 大きい(IR LEDの駆動電流) | VBUS → 330Ω → IR LED → Collector → Emitter → GND | Emitterから供給された電子がCollector側へ突き抜けることで流れる主電流 |
7. なぜ「ローサイド」なのか
BC337はIR LEDとGNDの間に置かれている。つまり負荷(IR LED)の下流側(GND側)をON/OFFする配置になっている。この配置をローサイドスイッチと呼ぶ。
負荷を電源側に固定し、GND側との接続をトランジスタで開閉する方式。負荷の上流側(電源側)を開閉する「ハイサイドスイッチ」もあるが、NPN型は構造上ローサイドで使うほうが単純な回路になりやすい。
8. Pin配置の確認
BC337-40BUは、平らな面を手前、足を下にして左からC-B-Eの順に並ぶ。Pin 1=Collector、Pin 2=Base、Pin 3=Emitterである。
| Pin | 名称 | 接続先 |
|---|---|---|
| Pin 1 | Collector(C) | IR LEDのカソード側 |
| Pin 2 | Base(B) | 2kΩ経由でGP18 |
| Pin 3 | Emitter(E) | GND |
C・B・Eを取り違えて接続すると、正しく動作しない、あるいは過大な電流が流れて破損する可能性がある。データシートで平らな面の向きとPin順を必ず確認する。
9. なぜ2kΩをBaseに入れるのか
Base-Emitter間は、4章で見たPN接合そのものであり、ダイオードと同じ性質を持つ。順方向電圧(約0.6〜0.7V)を超えると空乏層が消え、電流が急激に増えようとする。抵抗なしでGPIOをBaseへ直結すると、GPIOの出力電流の上限を超える電流が流れ、GPIOを壊す恐れがある。2kΩは、この電流を安全な範囲に制限する役割を持つ。
9-1. Base電流の目安を計算する
GPIOの出力電圧を3.3V、Base-Emitter間の順方向電圧を約0.7Vとすると、2kΩにかかる電圧は次のようになる。
(3.3 - 0.7) ÷ 2000 ≒ 0.0013A
つまり約1.3mA。この程度の小さい電流でも、Emitterから十分な電子がBase-Collector間へ供給され、Collector-Emitter間には十分大きな電流(今回は330Ωで制限された約10mA級)が流れる状態がつくれる。
10. GPIOを流れる電流とIR LEDを流れる電流は別物
| GPIOが担当する電流 | IR LEDに流れる電流 | |
|---|---|---|
| 経路 | GPIO → 2kΩ → Base → Emitter → GND | VBUS → 330Ω → IR LED → Collector → Emitter → GND |
| 大きさ | 約1.3mA | 約10.3mA |
| 電源 | Pico(3.3V) | VBUS(5V) |
| 物理的な実体 | Base-Emitter間の空乏層を薄くする電子の流れ | 薄くなったBaseを突き抜けてCollectorへなだれ込む電子の流れ |
GPIOが流す電流とIR LEDが流す電流は、大きさも電源も経路も別である。しかし両者は無関係ではなく、片方(Base電流)の大きさが、もう片方(Collector-Emitter電流)が流れられるかどうかを物理的に決めている。この結びつきが、トランジスタを「スイッチ」として使える理由そのものである。
📋 まとめ
| 項目 | 正しい理解 |
|---|---|
| 電流の正体 | 自由電子の移動。電流の向きは電子の移動方向と逆 |
| 半導体 | ドーピングにより自由電子(N型)や正孔(P型)の量を人工的に調整した材料 |
| PN接合と空乏層 | 境界にキャリアのない層ができ、順方向電圧(約0.6〜0.7V)を超えると消えて電流が流れる |
| NPN型トランジスタ | 薄いP型(Base)を挟んだN-P-N構造。Base電流がEmitterからの電子供給量を左右し、Collector電流を決める |
| 今回の使い方 | ローサイドスイッチ。負荷(IR LED)をGND側で開閉する |
| 2kΩの役割 | Base-Emitter間(PN接合)に過大な電流が流れるのを防ぎ、GPIOを保護する |
| Pin配置 | 平らな面を手前・足を下にして左からC-B-E |