抵抗の働き

電流を制限する・信号線をHIGHに戻す — オームの法則の成り立ちから4種類の抵抗の役割まで

第2章・第4章・第3章で、5kΩ・2kΩ・330Ω・100Ωと4種類の抵抗を使った。同じ「抵抗」という部品でも、置かれる場所によって役割がまったく異なる。なぜ抵抗という現象が起きるのかという土台から積み上げて、プルアップ・電流制限・ベース抵抗・電源フィルタという4つの役割の違いまでを理解する。

1. なぜ電流は「流れにくく」なるのか

導体の中では、自由電子が電界から力を受けて一方向に押し流されている。しかし、この電子は真空中を何にも邪魔されず進んでいるわけではない。結晶を作る原子(イオン)の間をすり抜けながら進み、その途中で原子に何度も衝突する。衝突するたびに電子は運動エネルギーの一部を失い、その分が熱として結晶側に渡される。この「衝突による進みにくさ」が、電気抵抗の正体である。

抵抗で部品が温かくなる理由
電子が原子に衝突して失うエネルギーは熱に変わる。抵抗に電流を流すと部品が発熱するのは、この衝突が絶えず起きているためである。流れる電流が大きいほど、単位時間あたりに起きる衝突の総量が増え、発熱も大きくなる。

1-1. 材料によって衝突のしやすさが違う — 抵抗率

原子の並び方や種類が違えば、電子が衝突する頻度も変わる。銅や銀のように自由電子が非常に動きやすい配列を持つ金属は電流を通しやすく、逆にニクロムのように電子が頻繁に衝突する配列を持つ金属は電流を通しにくい。この「材料ごとの通しにくさ」を数値化したものを抵抗率と呼ぶ。同じ太さ・長さの導線でも、材料の抵抗率が違えば抵抗値は変わる。

また、同じ材料であっても、導線が長いほど電子が衝突する回数の合計が増えるため抵抗は大きくなり、太いほど電子が通れる道筋が増えるため抵抗は小さくなる。回路部品としての「抵抗」は、この抵抗率・長さ・太さの組み合わせを、狙った抵抗値になるように設計してパッケージ化したものである。

2. オームの法則 — 押す力と流れにくさの関係

電子を押し流す力の元になっているのが電圧(電位差)であり、電子が進みにくい度合いを表すのが抵抗である。押す力が強くなれば、同じ抵抗でもより多くの電子が単位時間あたりに通過できるようになる。逆に、抵抗が大きくなれば、同じ押す力でも通過できる電子の量は減る。この関係を整理したものが、抵抗にかかる電圧 V、流れる電流 I、抵抗値 R の間に成り立つオームの法則である。

オームの法則

V = I × R

電圧が分かっていれば、抵抗値を変えることで「流れる電流の大きさ」を狙った値に調整できる。これが抵抗の最も基本的な使い方=電流制限である。

抵抗の回路図記号と電流の関係 R 電流 I R が大きい → 電子が衝突しやすく I は小さくなる R が小さい → 電子が進みやすく I は大きくなる V = I × R
図1:抵抗値Rを選ぶことで、同じ電圧でも流れる電流Iの大きさをコントロールできる。Rは電子と原子の衝突しやすさを表す量。

3. 今回は「4種類の抵抗」があり、役割が全部違う

場所 役割
5kΩ ×2 DHT20 SDA・SCL → 3.3V I²Cのプルアップ。信号線をHIGHへ戻す。
2kΩ ×1 GP18 → BC337 Base Baseへ流れる電流を制限し、GPIOを守る。
330Ω ×1 VBUS → IR LED IR LEDへ流れる電流を約10mA級に制限。
100Ω ×1 3.3V → PL-IRM1838B VCC 47µFと組み合わせ、IR受信器の電源ノイズを減らす。

同じ「抵抗」でも、信号線を持ち上げるものと、電流の量を制限するものとでは、狙いがまったく異なる。以下、それぞれ個別に見ていく。

4. プルアップ抵抗(5kΩ) — 信号線を「宙ぶらりん」にしない

I²Cでは、機器が信号線を主にLOWへ引き下げる方式(オープンドレイン)を使う。誰もLOWにしていないとき、信号線は電気的に浮いた状態(フローティング)になり、ノイズで値が不安定になる。そこで、抵抗を通して3.3V側へ常に引っ張っておき、誰も引き下げていない間は確実にHIGHにする。これがプルアップである。

プルアップ抵抗の働き 3.3V 5kΩ SDA線 DHT20 誰も引き下げていない → HIGH(3.3V) DHT20がLOWへ引く → LOW(0V)
図2:プルアップ抵抗は、信号線が「誰にも引かれていないとき」だけ電流を流してHIGHを作る。機器がLOWに引くときは抵抗を介して微小な電流が流れるだけで、機器側の負担は小さい。
なぜ 4.7kΩ ではなく 5kΩ でよいのか
DHT20の資料で例示される4.7kΩに対し、5kΩは約6%大きいだけである。今回の短いブレッドボード配線・低速なセンサー用途では、実用上ほぼ同じ範囲として扱える。値が小さすぎるとLOWへ引き下げるときの電流が増え、大きすぎるとHIGHへ戻る速度が遅くなるため、どちらの方向にも余裕がある値であれば代用が可能である。

5. ベース抵抗(2kΩ) — トランジスタとGPIOを守る

トランジスタ(BC337)のBase(ベース)端子は、電流を流しすぎると素子を壊してしまう。また、GPIOが直接大きな電流を吸い込む・吐き出すことになると、マイコン側にも負担がかかる。GP18とBase端子の間に2kΩを挟むことで、Baseへ流れる電流を安全な範囲に制限し、両方を保護する。

なぜ2kΩなのか
トランジスタは、Baseにわずかな電流を流すだけで、Collector-Emitter間に大きな電流を流せる「増幅」の性質を持つ。Base電流を絞りすぎると十分にON状態にならず、大きすぎるとGPIOやトランジスタの定格を超える恐れがある。2kΩはこのバランスを取るための値である。詳細はトランジスタの働きのコラムを参照。

6. LED電流制限抵抗(330Ω) — 明るさと寿命を決める

LEDは抵抗のように「電流に比例して電圧が決まる」部品ではない。ある一定の電圧(順電圧)を超えると、電流が急激に増える性質がある。抵抗なしでLEDを電源に直結すると、過大な電流が流れて焼き切れてしまう。そこで直列に抵抗を入れ、流れる電流を制限する。

6-1. 330ΩでIR LEDにどのくらい流れる?

VBUSを5V、IR LEDの順電圧を約1.6Vとし、まずトランジスタの電圧降下を無視すると、電流は次のように計算できる。

🔢計算

(5 - 1.6) ÷ 330 ≒ 0.0103A

つまり約10.3mA。実際はBC337にも多少の電圧降下(Collector-Emitter間の飽和電圧など)がかかるため、実際に流れる電流はこれよりわずかに小さくなる。

IR LED 電流経路 VBUS 5V IR LED 330Ω BC337 C-E間 ≒10.3mA が流れる (BC337の電圧降下分だけ実際は少し小さい)
図3:VBUSからLED・330Ω・BC337を経てGNDへ電流が流れる。330Ωの値が、この電流の大きさを決めている。
⚠️ 抵抗値を小さくしすぎると
330Ωより小さい抵抗にすると、流れる電流が増えてIR LEDは明るくなるが、LEDやトランジスタの定格電流を超えると破損の原因になる。データシートの絶対最大定格を確認したうえで抵抗値を選ぶ必要がある。

7. 電源フィルタ抵抗(100Ω) — コンデンサと組み合わせて使う

100ΩはPL-IRM1838BのVCC直前に入れ、47µFのコンデンサとセットで電源ノイズを減らす役割を持つ。抵抗単体では電流を制限するだけだが、コンデンサと組み合わせることで、電源ラインの急な電圧変化を吸収する簡易フィルタとして働く。

抵抗とコンデンサの役割分担
100Ωは「電流の通り道を細くする」役割、47µFは「電圧の変化を滑らかにする」役割を担う。この2つを組み合わせることで、Picoの電源に乗る微小なノイズがPL-IRM1838Bに届く前に減衰する。詳細はコンデンサの働きのコラムを参照。

8. 抵抗値の選び方 — 共通する考え方

4種類の抵抗はそれぞれ役割が異なるが、選定の考え方には共通点がある。

問い 考え方
電流を流しすぎていないか V = I × R から、想定される最大電流を計算し、部品の定格を超えないか確認する
信号がHIGH/LOWとして機能するか プルアップの場合、小さすぎず(電流過多)、大きすぎない(応答遅延)値を選ぶ
手元の部品で代用できるか 数%〜十数%程度の差であれば、短い配線・低速用途では実用上問題ないことが多い

📋 まとめ

項目 正しい理解
抵抗が生じる理由 自由電子が結晶中の原子に衝突し、運動エネルギーの一部を熱として失うため
抵抗率 材料ごとの「電子の衝突しやすさ」を数値化したもの。長さ・太さと合わせて抵抗値が決まる
オームの法則 V = I × R。電圧という「押す力」と抵抗という「進みにくさ」の関係
プルアップ(5kΩ) 信号線が引かれていないときにHIGHを作る。値は多少の幅があっても実用上問題ない
ベース抵抗(2kΩ) トランジスタのBase電流を制限し、GPIOとトランジスタ双方を保護する
LED電流制限(330Ω) LEDに過大な電流が流れるのを防ぎ、明るさと寿命を決める
電源フィルタ(100Ω) コンデンサと組み合わせて、電源ラインの急な変化を減衰させる